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シリーズ:仏教のひみつ第5回「禅の修行が目指すもの」〜どうしてウソをついてはいけないの?

シリーズ:仏教のひみつ第5回「禅の修行が目指すもの」〜どうしてウソをついてはいけないの?
お寺情報 全国
2019/03/08

 

前回、「水を大切に」「モノを大切に」することが禅の修行だと説明しました。

でもこうしたことはお坊さんだけではなく、誰もが当たり前のように口にすることでもあります。

 

「別に改めてお坊さんに言われなくても分かっているよ!」

 

と思った人もいるかもしれませんが、実は一般に言われるそれと、お坊さんが言うそれは、似ているようで全く違います。

 

 

今回は、「道徳」と「宗教」の違いを切り口に、禅の修行が目指すものを深めて考えていきたいと思います。

 

世の中には「道徳」という概念があります。

近年、教育の現場などでも道徳の重要性が話題になっているのは皆さんもご存じのとおりです。

 

これとは別に、「宗教」というものがあります。

禅も宗教の一種ですが、キリスト教やイスラム教、仏教などは世界的に信者の多い宗教です。

そして、各宗教の「戒律」に類するものを見比べていくと、実はあまり内容が変わらないことに気が付きます。

 

「泥棒をしない」

「嘘をつかない」

「性欲に溺れない」

「人に危害を加えない」

など、宗教を越えて共通する項目は沢山あります。

 

そしてまた「道徳」でも、やはり同じようなことを言うのです。

 

 

「道徳」と「宗教」は同じもの?

「道徳」と「宗教」は同じもの?

 

では、「道徳」と「宗教」は同じものなのでしょうか?

 

禅僧の立場から整理すると2つは大分違っていて、決定的な違いは「まもる目的」です 。

 

「道徳」の目的は、同じ社会に生きる者として互いに迷惑をかけないこと、そして所属する社会の秩序を保つことにあります。

ですから、「嘘をついてはならない理由」は、道徳的には「他人の迷惑になるから」であり、「社会の秩序を乱すから」です。

 

別の角度から見れば、道徳は「絶対」でも「固定されたもの」でもなく 、国や民族、また時代によって大きく変わります。(この日本という国の中でも、例えば戦前と戦後では「道徳」の内容は大きく変わっています。ある日を境に、教科書にスミを塗ったのですから。)

 

一方で、「宗教」の目的は、「その人自身がどんな人間になっていくのか 」を導く点にあります。

ですから、宗教的に「嘘をついてはならない理由」は、「嘘をつく醜い自分になってしまうから」です。

 

そして宗教は、時代や社会によって変わるものではなく、どんな人にも共通なものと位置付けられます。

 

 

お経の「経」は「たて糸」という意味

お経の「経」は「たて糸」という意味

 

仏教の教えを「お経」と言いますが、「経」は元々「たて糸」という意味の言葉で、「動かず変わらないもの」を指します。

 

織物のたて糸でイメージする、人生のたて糸です。いつでもブレることなく自分を導き、人生という「織物」を完成させるために必要となる導き手なのです。

 

結局のところ、宗教が示すものは「あなたはどんな人間になりたいですか?」という問いに他なりません。

 

ウソをつけば、ウソが身体と心に沁みついていきます。

はじめは後ろめたさを感じても、重ねていけば自然に、平気で嘘をつくようになります。

 

そして嘘つきの嫌な顔つきになっていきます。

禅では、「自分の行いはお香の香りのように自分に沁みつく」と考えます。

 

 

 

あなたはどんな香りを身に纏い、どんな顔つきで生きていたいですか?

 

「誠実」な顔で生きていたいのか、「不誠実」な顔で生きていたいのか。

「傲慢」な臭いを染み込ませたいのか、「謙虚」な香りを身に纏いたいのか。

「乱暴」な習慣をクセにしたいのか、「穏やか」な人間でいたいのか。

 

他人から要求されるものではなく自分から欲するものとして考えていくと、「ルール」は別の顔で見えてくるはずです。

 

 

 

宇野 全智(うの ぜんち)

昭和48(1973)年、山形県生まれ。山形大学理学部生物学科卒業。曹洞宗の布教師養成機関(現在の曹洞宗総合研究センター教化研修部門)修了後、大本山永平寺で一年間の修行生活を送る。曹洞宗総合研究センター研究員、職員等を経て現在、同センター専任研究員。曹洞宗の教えを分かりやすく伝えるための企画・開発を手掛け、曹洞宗の本部、各支部が主催する僧侶・寺族向け研修会の講師などを務める。また曹洞宗公式サイト「曹洞禅ネット」の企画運営や、一般向け各種講演会、研修会、坐禅会、写経会等の他、曹洞宗「こころの問題」研究プロジェクトリーダーとして、被災地支援活動、自死遺族支援活動にも関わる。

著書「禅と生きる ―生活につながる思想と知恵 20のレッスン 」など